ヨーロッパでの残留農薬の規制はどうなっている?

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農産物の生産時に使用する農薬は、出荷する際に一定以上の量が残らないよう国内外で規制されています。例えば日本国内には、食品衛生法や農薬取締法という法律があります。この法律によって、消費者の健康が守られているということです。

それは海外でも同じことです。それでは、先進国の多いヨーロッパではどのように規制・管理されているのでしょうか。

残留農薬に関するヨーロッパの基準はどのように定められているか

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ヨーロッパと一括りにしても様々な地域があるので、ここでは多くの国が加盟しているEUを代表に見てみます。EUでは、食品や家畜の飼料に含まれる残留農薬の量を、「Maximum Residue Level」という基準で定めています。

日本語に訳すと、最大農薬量といったところです。この基準で管理されている農薬は、なんと1000種類以上にものぼります。ただしこの中には何十年も昔に定められた基準もあるので、今は使用が禁止されていたり、一般的には使われていない農薬も含まれています。

日本でもEUでも、使用できる農薬はポジティブリストで管理されています。ポジティブリストとは、数多くある化学薬品のうち、使っていいものについてリスト化して許可を出しているものです。逆の管理方法として、ネガティブリストというものがあります。

これは使ってはいけないものをリスト化し、禁止する方法です。ネガティブリストは管理が容易ですが、制度の穴をすり抜けられる場合があるので、一般的にポジティブリストで管理するのが安全とされています。

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ヨーロッパに農産物を輸出する時はどうなるのか

「Maximum Residue Level」で定められているのは、あくまでもEU諸国内で使われる農薬が対象です。それ以外の国には適用されません。つまり、ヨーロッパ以外の地域からEUに輸出される農産物の中には、「Maximum Residue Level」で定められていない農薬が含まれていることもあるのです。

例えば、他の国では許可されている農薬なのに、EUでは禁止されているといった場合です。このような場合、輸出者はあらかじめEUに申告をする必要があります。EUはその申告内容に応じて、「Maximum Residue Level」に新たな農薬の基準を追加したり、基準を緩和または規制強化するのです。

EUが却下した場合、その農薬が含まれた農産物は輸出できません。そのため、ヨーロッパ諸国に農産物を輸出する事業者は、あらかじめ「Maximum Residue Level」について調べ、その範囲内で農薬を使用する場合が多いです。

ヨーロッパの農薬使用基準はどこで確認できるか

残留農薬や、それによる健康への影響が気になるのは、どの国の消費者も同じです。EUに農産物を輸出する事業者は、国内向けに生産する場合と同様、消費者が安心して購入できるよう配慮しなければなりません。それでは、EUで定められている「Maximum Residue Level」はどうやって確認すれば良いのでしょうか。

「Maximum Residue Level」のポジティブリストに含まれる農薬の一覧は、EUが公開している「Maximum Residue Level検索データベース」というウェブサイトで確認することができます。

このデータベースでは食品カテゴリ別や農薬名別に検索ができ、使い方も簡単です。ただし、英語なので翻訳アプリ等を使う必要があるかもしれません。もうひとつの方法としては、欧州議会・理事会規則を見て確認することもできます。

ただし、この規則は農薬以外に関する規制も含まれていて、PDFで1500ページ以上にもなるので、参照する資料としてあまり現実的ではありません。最新のデータが反映されていない場合もあるので、利便性や正確性を考えても、「MRL検索データベース」を利用するのが確実でしょう。

ヨーロッパに農産物を輸出するときに検査などはされるのか

「使用している農薬は基準値を守っています」と事業者がEUに対して申告していても、実際には虚偽であるという可能性は否定できません。そのようなケースを防ぐために、EUでは輸出されてきた農産物の中からサンプルを選び、どの程度の残留農薬があるかを検査しています。

この際に注意すべきなのは、「Maximum Residue Level」は文字通り「農産物に含まれる最大の農薬量」を前提に定められているということです。そのため場合によっては、一般的には食べられない根や芯の部分をサンプルとして検査される場合があります。

また、生の食品と加工された食品で基準値が違う場合があることにも注意が必要です。農薬は化学薬品なので、熱したり乾燥させたりすることで化学変化が生じ、濃度や健康への影響が高まってしまうものがあるからです。この検査で大幅に基準値を上回ると、当然農産物は輸出することができません。

しかしわずかに上回っているだけの場合は、必ずしも差し止められるとは限らず、EUに加盟している各国が独自に輸出を受け入れるか却下するかを選びます。国によってこのあたりの裁量が違い、厳しく規制する国と緩い国とがあります。

EU加盟国に農産物を輸出する事業者は、「Maximum Residue Level」について調べるのはもちろんのこと、輸出しようとしている国の規制が厳しいのか緩いのかも知っておく必要があるでしょう。

ヨーロッパに輸出された農産物に違反があったらどうなるか

EUでは近年、食品の安全性を重視する傾向が強まっています。特に、EUに「輸出される食品のリスクが高い」と判断された諸外国に対しての規制は、より厳しいものとなっています。その場合、サンプル検査が徹底されたり、事業者に各種証明書の提示が義務付けられたりするので、輸出は難しくなるでしょう。

ただし、しばらくして食品安全性に改善が認められれば、規制が緩和されるシステムも定められています。そのため、リスクが高い国だと判断されても直ちに影響が出るわけではありません。しかし、逆に安全性が悪化している場合や、規則を守らない状態が長く続いた場合、最終的には禁輸措置にまで行きついてしまいます。

幸いなことに2021年2月現在、日本のいずれの農産物も高リスクとは判断されていません。今後もこの良好な状態を保つには、国内の各事業者がそれぞれ規制を遵守する必要があるでしょう。また、世界全体の傾向として残留農薬に対して厳しい目が注がれるようになりつつあり、EUも例外ではありません。

今は「Maximum Residue Level」で許可されている農薬についても、今後禁止される可能性は否定できないので、輸出を考えている事業者は都度基準を確認しておくことが大切です。

ヨーロッパでも食品に対する安全は守られている

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食品の安全性が重視されているのは、日本でもヨーロッパでも、その他の地域でも同じことです。世界中の事業者が、農産物の安全性を意識することが重要です。また、ヨーロッパに旅行して消費者として食品を購入する場合も、食品衛生法がないからといって過度に不安になる必要はないことがわかりました。

消費者も生産者も、その国の法律や基準を理解し、安全な食生活のために自ら判断することが求められるでしょう。