残留農薬の分析部位に関する課題と我が国の変更点

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市場に出まわる農作物には、人体に悪影響を与える残留農薬が一定量含有されています。消費者の健康を守るため、こうした残留農薬は、規制することが必要です。農作物に含まれる残留農薬を調べるには、検体の分析が欠かせないのですが、農薬が残留しにくいとわかっている部位まで分析する必要はないかもしれません。適切な分析を行うためには、どの部位を検体としたら良いのでしょうか?

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残留農薬規制の必要性

農作物の栽培には、疫病や害虫により損害を受けるリスクが伴います。こうしたリスクを避けるためには、イソプロチオランやインピルフルキサムをはじめ、シアントラニリプロールやスピネトラムといった一定量の農薬使用が必要です。

このような農薬には毒性があり、人間が大量に摂取すれば、内臓の機能障害を起こしたり、悪性新生物が発生したりするリスクを負うことになるでしょう。麦や豆類は疫病や害虫に強く、農薬使用量も少なくて済みますが、疫病や害虫に弱い水稲や果実の栽培は、農薬に頼らざるを得ないという現状があります。

特に、果実は生育過程で農薬散布が必須となるだけでなく、輸送時も2臭化エチレンといった燻蒸剤を使うことが多く、消費者の健康を守るためには残留農薬の規制が欠かせません。食卓に並ぶ食品に含まれる残留農薬は、ポジティブリスト制度によって基準値が定められ、基準値を超える残留農薬が検出された場合、その食品の流通と販売が禁じられています

残留農薬の分析対象となる部位

残留農薬は、果実や野菜の全部位にわたって満遍なく滞留するわけではありません。農薬が集まりやすい部位とそうでない部位に分けられます。残留農薬を検出する際に、農薬が少ない部位だけを検査して、安全かどうか判断したら、消費者の健康を守れないでしょう。

そこで、検体部位についても、農作物ごとに詳細に規定されています。分析部位を決める際に、まず人間が口に入れる可能性がある部位を全て分析対象とする考え方があります。へたや種子を捨てる果実の場合でも、皮ごと食べる可能性があるリンゴやブドウなどは皮ごと分析しなければなりません。

また、農薬が最も残留している状態の時に分析することが重要です。加熱調理して食べる農産物の場合、調理前の生鮮状態で分析する必要があります。加熱調理すれば、残留農薬の量は減少するので、安全確保の観点から、残留分析の結果はできるだけ多めになる時期を選んでいるのです。

逆に、お茶の場合は摘んだ後の生の茶葉ではなく、製茶して乾燥したものを分析しなければなりません。乾燥させて水分が少ないお茶の方が、残留農薬の濃縮により、検出量が増えるからです。乾燥した茶葉にお湯を加えてできる抽出液も、乾燥した茶葉ほど残留農薬の量が多くありません。

分析対象部位を重視する観点から、国によって規定された検体部位(基準値適用部位)を分析した結果を、安全とされる基準値と比較し、流通・販売の可否を判断しています。ただし、国が定めた安全基準は、国際基準と異なる部分があり、問題視されていることも否定できません。

基準値適用部位の国際基準としては、後述のコーデックス基準があるのですが、農産物の種類によっては本邦の国基準がこれより緩いという批判を免れないのです。そこで、日本の基準値適用部位についても、可能な限りコーデックス基準の適用部位に整合させることが望ましいと言われるようになりました。

この提言により、果実の基準値適用部位が果皮を含まないものから果皮を含む果実全体に変更されるケースが増えたのです。このように、基準値適用部位を拡大する傾向は今後も続くでしょう。国全体が、より安全な食物を国民に提供し、残留農薬による健康被害を減らして、医療費の削減につなげようと尽力する方向性が見られます。

リンゴの残留農薬が気になる場合

残留農薬分析の国際基準とされるコーデックスとは?

コーデックスとは、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)の合同国際食品規格委員会(コーデックス委員会)が定めた使用農薬規制の国際基準のことです。農産物が世界中に流通するグローバル化の時代においては、農産物の残留農薬を規制する国際基準がないと、他国から残留農薬が大量に含まれた農作物が輸入されるおそれがあり、消費者の健康を守ることができません。

この国際基準は、コーデックスMRLと呼ばれており、MRLは、Maximum Residue Limitつまり「残留基準値」を表しています。コーデックスMRLは、動物実験の結果を基に算定された農薬の毒性を参考にして、野菜・果実ごとに1日当たりの農薬摂取量の上限を定め、これを超えないよう設定されています。

このコーデックスMRLを、欧米に倣って日本も残留農薬の規制基準を決める際の指針としているのです。国によって残留農薬の規制基準がバラバラだと、輸出入において関税以外の障壁が生まれて貿易の障害となるため、世界貿易機関(WTO)は、SPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)により、輸出物に統一的農薬規制を求めるようになりました。

このため、WTOに加入している日本も、残留農薬の規制基準を国際レベルに合わせざるを得なくなったと言えるでしょう。

残留農薬分析の部位の違いに関する具体例と変更点

日本の基準値適用部位を、コーデックス基準と比べてみると、いくつかの代表的な事例で顕著な差異が見られました。みかんとキウィーは、果皮を除去したものを分析対象としていましたが、コーデックス基準では「(指定がなければ)果実全体」とされています。

また、すいか・まくわうり・メロン類果実の分析対象部位に関する国内基準は、果皮を除去したもので十分ですが、国際基準では「果梗(茎)を除いた全体」となっているのです。びわは、国内で果梗のほか果皮及び種子を除去したものを分析しますが、コーデックス基準では「果梗(茎)を除いた全体」を分析しなければなりません。

その後の通達により、みかんは日本でも外果皮を含む「果実全体」が検体部位となりました。果皮及び種子を除去したものが検体部位とされた桃も、新たに果皮及び種子を含む「果実全体」を検体部位とすることになったのです。

基準値適用部位変更の注意点

検体部位をコーデックス基準と一致させる方針によって、これまで除外されてきた果皮などの部位も分析対象となるケースが増えました。ただし、果肉と果皮では成分が異なるため、従来の果肉のみの分析手法が、果皮を含む果実全体にも適用できるかわからないという問題点が依然残されています。

果肉と果実全体を比較すると、残留農薬の濃度が異なるため、機械的に従来の分析基準を果実全体に当てはめると、適切な分析結果が得られないケースも考えられるからです。

残留農薬対策とコーデックスによる規制

残留農薬の分析部位について、国際基準が共有されれば、貿易もスムーズになる

グローバリゼーシにより効率的な農作物の流通が促進される世の中ですが、残留農薬の問題を抱える野菜や果実について、健康重視の観点から厳しい規制基準が設けられなければなりません。分析部位についても、国家によってバラバラの基準では、非関税障壁となってしまうので、国際的に統一された基準が求められます。

コーデックス基準の設定により、残留農薬の規制基準が共有されれば、農作物の輸出入も円滑に行われるでしょう。